メニューを彩るエディブルフラワー
ヨーロッパでサラダやスイーツの素材として古くから親しまれてきた食用花「エディブルフラワー」。その種類は、ビオラやナデシコなど観賞用として知られているものも多い。日本においても、1980年頃からイタリアンレストランなどで取り入れられてきたが、近年はSNSの普及にともない、見栄えにこだわったスイーツにも使われるようになり、より身近なものになってきている。
そんなエディブルフラワーを守山市で生産している女性がいる。「IZUMI YAMASAKI」の山崎いずみさんだ。年間約20種類を、ホテルやパティスリーなどの飲食店をはじめ個人にも販売している。
きっかけはミツバチの大量死。蜂と人が同じ花を分かち合う世界を
いずみさんが「IZUMI YAMASAKI」を立ち上げたのは2017年のこと。2015年に全国各地でミツバチの大量死が相次いだのがきっかけになった。
「こわい、と思いました。なぜこれほど大量の蜂がいっぺんに死ぬのだろうと」。
起業家としての一面も持ついずみさんは、当時、滋賀県初のコワーキングスペース「ROOT」を立ち上げたばかりで多忙な日々を送っていたが、もとより長野県の自然豊かな環境で養蜂をする祖父母と暮らして育ったいずみさんにとって、ミツバチの大量死は次の一歩を踏み出すのに十分だった。
いずみさんは、ミツバチの大量死にネオニコチノイドという農薬が関係していることを知ると、『蜂と人が同じ花を分かち合う世界を』というコンセプトのもと、エディブルフラワーの農薬不使用栽培に取り組み始めた。また、見た目の美しさだけでなく、花を使う人の立場になり実際に調理してみて、味、熱や油に対する耐性など、エディブルフラワーの魅力を十分に伝えられる表現力を身に付けていった。
難航した販路開拓。大切なのはコミュニケーションとプロ・クオリティ
ところが、ようやく出荷準備を迎えた花たちは、すぐに売れるほど簡単ではなかった。しかし、
「商談で断られたとしても、その理由を聞き出すコミュニケーション力で販路を広げていきました。また、お客様から『おまかせでいいよ』とオーダーをいただいたとしても、その本心は決しておまかせではありません。お客様がイメージするものを共有し、より良いものを提案することが大切です」。
そして、もう一つのこだわりが「鮮度・色・かわいらしさ」だ。
時折、店頭で見かけるエディブルフラワーは、手にとった時点で鮮度が落ちていることが多かった。また、インターネットで販売されているものは色を選べなかったり、実際に取り寄せてみると使う気になれないものが少なくなかった。
そのため、プロの料理人も満足できる品質を目指して、栽培方法はもちろん、どのように摘み取り、保管し、発送すればお届け後も鮮度を保てるかを試行錯誤し、高品質で見栄えのする商品化に成功した。
活動を支える女性スタッフたち
こうした活動を支えているのが、4人いる女性スタッフだ。
「スタッフは全員非農家ですが、女性が思う“かわいい”は人を突き動かすことのできる、ものすごいエネルギーをもっていると思うんです。私たちならではの視点で多くのニーズに応えていけると思っています」。
決して自信家ではないいずみさんだが、このように胸を張って語ることができるのは、スタッフを信頼し、失敗した悔しさも成功した喜びも分かち合ってきたからにほかならない。
「これから私が成し遂げようとしていることは、とても一人ではできないことだと重々承知しているので、現場のことはあえてスタッフに任せています。スタッフは全員、子育て中の女性ばかり。貴重な時間を使ってくれている以上、彼女たちの幸せも考えないと事業の意味がないと思います。みんなに『ここで働いてよかった』と思ってもらいたいです」と語る。
近年は海外への輸出も見据えてドライ・エディブルフラワーにも力を入れており、いずれは生産拡大して養蜂に取り組むことも視野に入れている。
女性起業家ならではの視点で身近な人の幸せを考えながら、社会に求められるものを作り出すいずみさん。今後ますますの活躍に期待したい。