「わくわく」を大切にしたら、シェフと信頼関係を築くことができた
カーボロネロ、サンマルツァーノ、ロメインレタス…飯盛さんの育てる野菜は、およそスーパーでは見かけることのない珍しいものばかり。50aの畑で年間約100品種の野菜を、農薬や化学肥料を使わずに生産する。主な顧客は飲食店だ。
「自分が “わくわく”する感覚を大切にしています。どんなことも楽しむことで、うまくいくことが多いです」。そう語る飯盛さんは、食べることが大好き。気になるレストランがあれば自ら赴き、そこでシェフと交流することが、結果的に取引につながっているケースは多いという。同じ野菜でも、大きいサイズを好むシェフもいれば、小さいサイズを好むシェフもいる。それぞれの好みを把握することで、シェフ達の信頼を得てきた。予算内であれば野菜のセレクトを任せられることも多い。
「任せてもらえると、次はこんな野菜をつくってみようとチャレンジできるし、シェフもこうきたか!と冒険できる。お互いに高め合えるんです」。時にはシェフからの要望にも応えながら、飯盛さんの野菜づくりへの熱い思いは口コミで広がっていった。
スタッフと始めた野菜部を事業化。食べてくれる人を笑顔にしたい
飯盛さんが農業を始めたのは4年前。仕事と育児の両立に悩み、それまで10年続けた介護士を辞めて、叔父の園田耕一さんが経営する「(株)近江園田ふぁーむ」にパートとして転職した。
近江園田ふぁーむは、主に米、麦、大豆を生産している農業法人。病院や企業から出る食品残渣の生成物(乾燥・分解したもの)を回収し、堆肥化して土に返す循環型農業で高い評価を得てきた。
一年目は米づくりに励む飯盛さんだったが、会社が実践する循環型農業ならおいしい野菜ができるのではと、野菜の栽培経験があるスタッフを誘い、昼休みに野菜を育て始めた。収穫期になると自分たちでは消費しきれないほどの野菜が採れた。しかも、おいしい。
ためしにマルシェに出品すると、来場者から「もっとないの?」と反響があった。レストランでも、自らの取り組みを話すと好感触を得られたため、会社に事業計画書を提出。事業化にこぎつけた。当初はプレッシャーで胃が痛くなることも多かったというが、順調に顧客数を伸ばしたことで、今は経過を見守ってもらっている。
野菜の販売は飯盛さんの役目。自らも栽培はするが、スタッフが一生けん命育てた野菜を本当に良いと思えるからこその理念がある。
「おいしい野菜で人を笑顔にしたい。そういう思いを忘れずに続けていきたいです」。
母としてやりがいを感じる毎日。農業女子同士の交流も励みに
飯盛さんは、3人の子を持つ母でもある。夕食の献立を考えながら収穫することもしばしば。
「今日の野菜は何?うちの野菜は変わってるよね」と、子どもたちが野菜に興味を持ち、食べるようになった。
「子どもに採れたての安全な野菜を食べてもらえることって、すごく贅沢なことだと感じます。それで子どもたちが元気に育ってくれれば、私にとってこれほど幸せなことはないです」。
かつて、介護士として人の幸せを願いながらも、自身の子どもは保育園に預けてつらい思いもさせてきた。そんなふうに悩んできたからこそ、飯盛さんの得られた充足感は大きい。
結婚や出産で農業との両立に悩む農業女子が多いことについては、次のように語った。
「私のように農業法人で働くことで、家庭や子どもとの時間を確保するという選択肢もありだと思います。いずれ独立したいという人も、気になる法人があれば、ぜひ見学してみてください」。
農業女子との交流も励みにしてきたという飯盛さん。
「野菜のおいしさや、野菜で人を笑顔にできる喜び、そういったことを農業女子たちは知っています。女性同士の目線で、品種の選び方や収穫するサイズ、販売方法などの情報を交換し合ってきました。おかげで、今は自分のやり方に自信を持てるようになりました」と、仲間の大切さを語った。
最近は地域の団体と連携して、家庭の生ごみを段ボールでコンポスト化して物々交換する取り組みや、もち麦ストローの生産にも協力している。女性目線での取り組みがますます楽しみだ。