生まれも育ちも永源寺。山間の農業に良いイメージはなかったが…
美しい紅葉で有名な永源寺からほど近く、アマゴやイワナが釣れる渓流に隣接する東近江市永源寺相谷町。そんな風光明媚なところに、「町田さらだぼうる」のハウスが建てられたのは2019年のこと。代表の町田香織さん、町田さんの長女七星(ななせ)さん、幼馴染の中野春美さんら女性3名が、レタスを中心に水菜・ハーブ・エディブルフラワーなど、多いときには約30品種を水耕栽培する。
そこで使われるのは、地元の人が「谷の水」と呼ぶ水。水道水だが、その水質は市街地と大きく異なり、わずかに含まれるカルキもハウス内を循環するうちに抜けるという。「私もこのおいしい谷の水で育ったんですよ」と町田さん。
町田さんは永源寺地区で建設業を営む家に生まれた。幼い頃から、集落のお年寄りたちが畑で雑草や獣害に苦心する姿を見てきたため、農業に良いイメージはなかった。
ところが、町田さんの家業を継いだ夫の敬一さんは、知人の水耕栽培プラントの施工に携わったのを機に、自らも農業に関わりたいと各地の水耕レタス農家を視察するように。すると、同行していた町田さんの方が、清潔なハウスや彩り豊かなレタスに感動してしまい、「これなら私がやってみたい!」と自ら就農することにした。
カフェのようなサラダセットが働く女性たちに人気。花束のようなアレンジメントも
町田さらだぼうるの野菜は、地域のスーパーや直売所、個人でも直接注文すれば買うことができる。なかでも人気の商品は、1袋300円(2020年6月時点)の「サラダセット」。彩り豊かな葉がいくつも入っており、カフェのような一皿が手軽に完成するのが特徴で、女子会の手土産などに利用されているという。また、幼稚園や病院、福祉施設などで働く女性たちがとりまとめて注文してくれる。「野菜嫌いの子どもも食べてくれる」と好評だ。
七星さんが独学で始めたというアレンジメントも人気を呼んでいる。野菜好きな人の誕生日や送別会で、花束に代えて贈られることが多い。カードを添えることもできる。
町田さんは、「私たちの強みは女性3人の仲良しグループということ。きれいやねー、かわいいねーと野菜たちに声を掛け合いながら作業しています。そうした雰囲気も伝わればいいな、と思います」と語る。
就農して約1年の現在は、個人からの注文が売上の半分以上を占めるまでになった。ただし、主力のサラダセットは単品を袋詰めするより出荷準備に時間がかかるため、効率化が目下の課題だ。また、レタスは暑さに弱いため、夏は品薄になりがちだという。初めての夏をどう乗り切るか不安を抱えながらも、喜んでくれるお客様を思い、日々模索している。
6次産業化講習を受け、さらなる夢に向けてチャレンジ
レタス農家になる夢を実現させた町田さん。次の目標は、娘の七星さんの夢を後押しすることだ。七星さんは、野菜ソムリエの資格取得も視野に入れ、自ら育てた野菜を使ったサンドイッチやサラダ、スープ、スムージーなどをキッチンカーで提供したいと考えており、親子で3年後の実現を目指している。
こうした夢は、町田さんが県の主催する6次産業化講習を受講したことで具体化できたという。
「講習では、事業計画をはじめ、商品写真の撮り方やパッケージのことなどを、多岐にわたり学ぶことができました。毎回課題をこなすのは大変でしたが、講師の先生がとても熱心に指導してくださり、なんとなく頭に思い描いていることを具体化できるのでお勧めです。ほかの受講者の発表を聞いて刺激を受けたり、いつかコラボできたらいいねといった話もできたりして、そうした人とのつながりができたことも良かったです」。
最後に、町田さんは自らが農業をする意義について、次のように語った。
「私は水耕レタスに出会って農業のイメージが変わりました。水耕栽培は力仕事が少なく、女性だけでできるのが魅力の一つ。若い人でも興味を持ちさえすれば、いろんなチャレンジができると思います。私たちの取り組みを通して、農業のイメージが変わればいいな!と思います」。