実践を積み重ねて挑戦を続ける

くさおか農園 田中真由美さん

長浜市

くさおか農園

田中 真由美さん

長浜市余呉町に生まれ育つ。百姓をしていた祖父の姿に憧れて農業の道を志し、祖父に習い、介護の仕事をしながら兼業農家として農業を始める。農業学校や農業法人で研修を経て2022年に独立し、水稲・露地野菜(ニンジン・マコモダケなど)を育てている。

[農地面積]400a

[栽培品目]水稲290a露地野菜110a(人参70a、マコモダケ20a 、その他30a)

[営農開始]2019年

[主な販路]直販、直売所、地元スーパー、学校給食、EC、通販、飲食店、酒蔵、米屋、その他

地域に当たり前に存在する農家になっていきたい

 長浜市余呉町、道には消雪パイプが装備され、集落の中には大きな屋根の母屋が並ぶ。真由美さんのご自宅の敷地内にはメンテナンス中の農業用機械が待機していた。兼業農家に生まれ育った真由美さんは高校生のころから農業をしていた祖父に憧れ、農業に興味を持った。 
 農業に携わるためには起業や経営に関する知識が必要だと考え、簿記など経済分野が学べる大学に進学した。大学生時代に農業インターンなどを通して実際に農作業も経験し、「たくさんの魅力的な農家さんに出会い、作業自体も自分に向いていると感じました」真由美さんは農業を職にしたいという思いを固めていった。
 農業インターン先では「農業をするなら社会を知っておいた方がいい」とアドバイスされ、真由美さんは、6次産業化や介護事業を手掛ける大手企業に就職する。そこで配属されたのが、神戸にある5階立て100人規模の介護付き有料老人ホーム。入居者のケアワーカーとして、認知症の入居者の介護業務を受け持ちながら、入居者が利用できる農園の管理や農作業をレクリエーション活動として企画した。「入居者のおじいちゃん、おばあちゃんは、農作業をしている若者を見ているだけで、笑顔になるし、認知症が進んでいても、土を触ると何か刺激されるみたいで、喜んでくれているのが伝わりました。」期間を決めて社会勉強として介護職についたこともあり、つらいというよりは楽しかったと真由美さんは話す。
 その後、真由美さんは滋賀に戻り、介護施設の夜勤をしながら社会人農業スクール(アグリイノベーション大学校)や地域の農業法人で研修し、知識や技術を深めていった。農業ビジネスに参入する法人、起業家、支援企業担当者とも交流がはじまり、新規就農者の支援プロジェクト「SHARE THE LOVE for JAPAN株式会社トゥルースピリットタバコカンパニー運営)」に応募し、新規就農者同士の交流や、先輩農家との交流、都心のマルシェへ参加するなど、幅広く農業に関するネットワークや視野を広げていった。

雪が積もる集落の家
大きな屋根の母屋が並ぶ集落

植物が健康にのびのびと成長できる環境を整える

 現在、真由美さんは、水稲230アール、露地野菜110a(人参、マコモダケ、他根菜類等)を耕作している。野菜は主に地元のスーパーや直売所の産直コーナー、地元の小学校給食などへ納品している。またオンライン直売所自社ECサイトで販売も行っている。地元「長浜市有機農業推進協議会」の会員が集まってできた「Nagahamaおてまいり屋」を通じて出荷することもあるという。 
 一方でお米の販売先は、祖父の代から長く付き合いのある常連の方がほとんど。「祖父の代からのお客様に恥ずかしくないお米をつくらなくてはあかん」と、お客様に喜んでもらえることを第一にしている。主にコシヒカリを栽培し、農薬は極力使用せず肥料も必要な量だけを使用している。祖父の代から、みのる方式を採用しており、苗がより大きく育った状態で田んぼに植えている。水位を高く管理できるため、病気に強く、雑草防除しやすいなど、有機栽培に適しているという。
 今年は、滋賀の在来種「滋賀旭」という昔ながらの食用米を酒米として無農薬で25アールほど耕作し、冨田酒造「七本鎗 無農薬栽培 滋賀旭 雫 生原酒」の原料として出荷することができた。一般のお客さんからも無農薬のお米がほしいという声があり、2022年産からは無農薬栽培米の販売も開始した。

雪の積もる畑へ収穫に出る田中さん
甘みが増す雪掘りニンジンを収穫

新しい発見をする瞬間が好き、農業はそれが尽きない

 真由美さんは、小さいころからアトピー性皮膚炎に悩まされ、神戸で介護職に就いていたころ症状が悪化してしまった。藁にもすがる思いで病院に通い、1年半かけて薬物療法・食事療法を実践する。特に小麦と大豆のアレルギー反応が強くでることがあったため「大豆油(植物油脂)がダメなので外食やコンビニ食をほとんどせず、かゆみを誘発する食べ物はたべない、食べられるものは根菜と米だけ」というストイックな食生活を3か月ぐらい続けアトピーを克服した。「おいしいパンを食べたいアトピーさんの気持ちがわかるし、こうした食に関わる仕事をしているのだから、そういう人の役に立ちたい、身体を内側から綺麗にすることを手助けしたい。」
 現在、真由美さんはアトピーやアレルギーを持っている人のためのグルテンフリー商品の販売を始め、米粉用のお米の栽培や、米粉への加工・販売も行っている。そのほかにも、お米の肥料として、菜種を栽培し自家製菜種油粕を作れないかと、ここ数年、県内外で情報収集をすすめ、2021年の秋から実際に菜種を作付け始めた。真由美さんには挑戦したいことがたくさんある。

食事療法でアトピーを克服した真由美さん。「これからも、安心安全で、心と身体が喜ぶものをつくりたい。」